Namazu Netネット小説シリーズ

アンバランス

2004年09月20日 update :::::::::::::::::::
▲アホのパラダイスTOP



アンバランス


*覗くだけでも楽しいお勧めサイト*
健康・美容・体にHappy// ポイント・アンケート・懸賞サイト//グルメ・食品// エンターテイメント// ファッション・雑貨// 結婚・お見合い・出会い
この物語は、12歳の時に犯罪を犯した少年が青年になり、奇怪な事件を繰り返す恐怖を描いたものです。
現代社会を恐怖に陥れる犯罪に鋭くメスを入れる。バッドマンの書き下ろし作品です。
※この、ストーリーはフィクションであり、登場する人物と実在する、団体、施設等とは一切関係ありません。
著作権は、「Bad Man's Novel」にあります。
目次
1.プロローグ
2.浮かび上がった『永崎雄二』
3.失跡!
4.追跡前夜!
5.松田雄二!








1.プロローグ

 平成4年6月のある日、日本中を震撼させる事件が南国の某県・N市で起きた。
12歳の普通の中学生が、小学校1年生の6歳児童を誘拐して殺害してしまったのだ。

 親子3人で郊外の大型ショッピングセンターに来ていた時悲劇は起きた。
 親がちょっと目を離したすきに、この女の子は誘拐されてしまった。
 犯人から身代金1,152万円の要求があり、報道関係者は協定により、報道を押さえていた。
 犯人のいうとおり、女の子の父親が、身代金1,152万円を指定された公園に持っていったが、結局犯人は現れなかった。
 それを境に、犯人からの連絡は途切れ、警察の必死の捜索にもかかわらず手がかりはいっこうにつかめなかった。
数日後、警察も公開捜査に踏み切り、報道関係の協定も解除された矢先のことだった。
 清掃車がゴミの収集に来たとき、作業員が、ゴミの袋に血のようなものが付着しているのに気がついた。
 「何だ?デカイ袋があるけど・・やけに重いな・・あっ・・せ・先輩た・大変です!」
 「どうしたんだよ・・デカイ声を出して・・」
 「先輩、このゴミ袋おかしいですよ?何か動物の死体でも入っているんじゃないんですか?」
 「ま・まさか・・魚料理でもしてそのゴミでも入れているんじゃないのかい」
 先輩の作業員が不審に思いならがらも恐る恐るゴミ袋を開けてみた。
 「なんだ、マネキン人形じゃないか・・・人騒がせな・・あっ・・・・・・」
 「せ・先輩どうしたんですか?」後輩の作業員が震えている先輩の後ろから声をかけた。
 「に・人間が死んでいる・・・」作業員の声は震えていた。
 作業員がゴミ袋を開けると中から女児童の死体がが出てきたのだ。
 連絡を受けた警察が現場に到着し調査したところ、誘拐された小学校1年の児童と判明した。
 警察も当初、犯人は20代半ばの変質者という見方をしていたが、商店街の防犯ビデオから市内の中学校のシャツと似ていたこと、現場付近の犯人と見られる足跡も同中学校指定の靴であることが分かった。
 警察は、容疑者を内定し補導したが、容疑者が中学1年と分かり、日本中がショックを受けた。
連日テレビ、新聞等で評論家や学識者の論議がかもしだされ、特集が組まれた。一部の人たちは、「容疑者の親がマスコミに登場して みんなに謝るべきだ。」とか、「少年法の改正を至急行い、少年でも処罰すべきだ」とか話題は尽きなかった。

 我が子を殺害された両親は、マスコミのターゲットにされ、被害者であるにもかかわらず、報道関係者のさらし者にされてしまった。
 容疑者の少年は、形だけ「とんでもないことをしてしまった、ごめんなさい・・」と謝ったが、その言葉には誠意が全然見られなかった。
家庭裁判所に送られ保護監察処分となった少年だったが、彼の両親は被害者の両親に謝ることも一切なく何処へと姿を消してしまった。
 いつしか月日は流れ、当時の事件のことを覚えているのは、被害者の両親と殺された少女の兄、それとB級雑誌社の記者、閑古鳥吉(かんことりきち)だけであった。

 平成15年3月奇妙な事件が起こった。都内のあるマンションの踊り場に猫や犬の死体が金曜日の夜になると必ず捨てられていたのだ。
最初は、誰かのいたずらと思いしかたなしに管理人が片づけていたのだが、3週連続で動物の死骸が捨てられたので警察に届けた。
 容疑者はなかなか見つからなかったが、このマンションに住んでいる『和多米一(わだよねかず』27歳が浮かびあがってきた。
 和多は、在籍していた某大学の出会い系サークル『スパーク・フリー』の経営をしていた。
 スパーク・フリーは、他の大学生でも会員になることができ年会費を3000円払い、パーティーが開催されるときに参加料を2000円払えば 大学生であれば男女誰でも参加できたのだ。
 パーティには有名な芸能人が来ることもあり、しかも一流なところをパーティー会場として使用していたので人気はうなぎのぼりになり、 1回パーティをすれば数百万にもなることがあったという。
 この和多と数人の幹部が実はレイプ事件を起こしたのだ。事件が発覚したのはパーティーが終わった後、気の弱そうな女性を数人誘い 泥酔させて乱暴したというのだ。
 和多は現在取調中で警視庁に保護されていた。警察が注目したのは、彼のマンションに一緒に住んでいる23歳の男だった。
捜査を進めているうちに、和多の背後に黒幕がいるではないかと警察は読んでいたが、なかなか浮かびあがらなかった。
 このマンションの近くに住む女性から、ストーカー行為を受けていると警察に相談があった。その男の名前は『永崎雄二』だった。
永崎は北関東の群馬県で高校生活をしていたが、都会生活にあこがれたのか単身上京し職を転々としていた。
 永崎は、女性を中傷するビラを作成し、女性の近所の郵便受けにばらまいたのだった。
たまたまフォーマを買った高校生が練習のため携帯ムービーを撮影していたところ、偶然にも中傷ビラを入れる永崎の姿が写っていたことから、警察から任意同行され、事情聴取されていたのだ。
 この時は、警察からの厳重注意だけで(調書はとられたのだが・・)放免された。
ただ、永崎が住むマンション付近で、猫や小鳥にボーガンの矢が打ち込まれたり、歩いている小学生を後ろから倒したり、マンションの踊り場に小動物の死体が放置されていたり、バイクで走りながらカッターナイフのようなもので人を切りつける通り魔、これら不気味な事件が頻繁に発生していた。

▲目次へ戻る

2.浮かび上がった『永崎雄二』

 平成15年3月下旬の寒い朝だった。若い女性が出勤途中、馬のお面をした男に後ろからカッターナイフのようなもので斬りつけられ、持っていた現金8万円入りのヴィトンのバッグを 盗まれた。
 幸い女性の怪我はコートを着ていたので軽傷ですんだが、女性が襲われた地域では同じような犯罪が多発していることから、警視庁でも本格的に捜査に乗り出した。
 「松竹岳博(まつたけたけひろ」刑事42歳と「大林 博」43歳の通称『ひろひろコンビ』が担当することになった。  松竹は、松さんと呼ばれ身長178cm体重100kgを超える重量級で、42歳とは思えぬ若作りで、有り余る髪を金髪のパンチパーマをかけ、右手には120グラムの金のブレスレットを、左手には110グラムのプラチナのブレスレットをしていた。
 声も重低音で、昔一世を風靡した『勝新太郎』のような声をしていた。
 「大林 博」刑事は通称『ひろさん』と呼ばれ、松竹とは対照的に、身長163cm、体重52kgな小柄な体に、色白で神経質そうな顔つき、しかし目は鋭く、大林に見つめられると蛇ににらまれたカエルのようになってしまう、髪の毛も松竹と違い髪の毛は少なく、前半分くらいははげていた。
 このふたりが一緒に歩いているとみんな道をよける、ふたりともヤクザより怖い風貌をしていたのだ。

 「松さんよお、ホシは変質者じゃないのかな・・俺の長い刑事生活の勘みたいなやつなんだけど・・」
 「ひろさんもそう思うかい?例の神戸の14歳少年による、児童殺害の事件はショックだったよな・・そういえば・・・もう10年以上も前になるかな・・N県で起きた12歳の中学生が小学校の1年生を誘拐して殺害した事件覚えてるかい?谷さんよ」
 「ああ、覚えているとも、忘れる訳ねえじゃないか・・。あれはまだ俺が特捜部にいる頃だった。俺は覚醒剤の売人から元締めを絞り出し逮捕したんだけど、例の少年の事件を聞いたときは正直自分の耳を疑ったね・・」
 「神戸の事件も、N県で起きた少年犯罪をまねしたのかな・・谷さん?」
 「そうだよな!あの事件から急に少年犯罪が多くなった。以前は暴走族の縄張り争いとか、家庭内暴力が原因だったり、はっきりした犯行根拠があったもんだが・・」
松竹は、有り余る金髪に染めた、パンチパーマの髪を手で触りながら腕時計を見た。時刻は午後2時を少しまわったところだった。
 「松さん、昔は喧嘩するにもルールがあったんだけどな、暴走族にしろ、家庭内暴力にしろ、原因を究明すれば、縄張り争いだったり、グループ同士の争いだったりそれなりに訳があった。家庭内暴力だって、思った大学や高校に入れなくなり、焦燥の末、家族に八つ当たりしたもんだ」
 「ひろさんの言うとおりだよ。だけどあのN県の事件は、何にも理由がなかった。弁護士が事情聴取したところ、『虫や蛇を殺すのに、何で人間はだめなの?』とかいってたよな、ばか者が・・・」
松竹は持っていたコーヒーの空き缶を握力80kgの左手でぺしゃんこに握りつぶした。
 「松さんよお、あの少年今何歳だ・・当時12歳だから・・えっーと、今23歳か?」
 大林は、半分はげ上がった頭に手をやると、少ない髪をかき上げながら松竹を見た。
 「まさか・・ひろさんも?そう踏んでいるのか?」
 「ああ、『スパークフリー』の和多容疑者を連行したとき、部屋の奥に隠れるようにしていた若い男がいただろう?どこかで見たことがあるような気がしたんだが、アレはN県で起きた児童殺害の容疑者じゃなかったか?谷さん」
 「うむ・・・一般の市民は顔を知らないが、警視庁のファイルには少年の顔も名前も指紋も全部資料は残っているからな。ただし一般の警察関係の人は見ることができない。写真週刊誌の『フィルター』に投稿された写真の少年に目のあたりがそっくりだったが・・」
 「当時は、少年法がどうとかで世間を賑わせたが、『フィルター』に出てしまったからな。版元が慌てて回収したが5割も戻ってこなかった」
大林は車のバックミラーに自分の頭を写し、少ない髪の毛を整えていた。
 「でも、あの男は関東出身で、名前も『永崎雄二』だよな・・N県の少年は、『松田雄二(まつだゆうじ)』だし、『雄二』の名前が一緒だけで、住んでいる県もN県と群馬県じゃ全然違うしな・・」
 「おい、松さん、永崎が出てきたぞ・・」松竹と大林は車に隠れるように潜んでいた。
 永崎は原チャリ(50ccのバイク)のエンジンをかけると、フルフェイスのヘルメットを被り、マンションの駐車場から出て行った。
 「ひろさん、気づかれないように尾行しよう」
 松竹はトヨタマークUのエンジンをかけると、サングラスをして永崎の後を追った。
 しばらく走ると、書店の駐車場にバイクを止め中に入っていった。
 「じゃあひろさん頼む!俺は少し先に車を移動しておくから」
 「ああ分かった。じゃあ本屋に行って来るぜ」
 大林はサングラスをはずし本屋に入っていった。
 永崎は科学関連の本を手に取ると、周りを確認して素早く持っていたバッグに入れてしまった。次にコンピューター関連のコーナーに行き自作PCの本を同じように万引きした。
そのまま本屋を出るのかと思ったら、成人雑誌のコーナーに行き、エロ雑誌を拾い読みし、ロリコン雑誌とエロ雑誌を手に取りレジに持っていった。
 大林は素早く奥の参考書コーナーに行き小声で携帯電話で松竹に連絡を取った。
 「松さん俺だ、今永崎が会計を済ませて外に出るけど、本2冊を万引きした。現行犯逮捕してくれ」
 「ひろさん分かった。あっ出てきた・・じゃあ電話切るぞ!」松竹は携帯電話をポケットにしまうと、書店から出てきた永崎のほうに歩いていった。とその時だった。
 「あのう悪いんだけどね。お兄さん小岩駅に行く道を道を教えておくれ」70歳を少し出たくらいのお婆さんに捕まってしまった。
 「お姉さん、ごめんよ急いでいるんだよ」
 「てめえこの野郎、人が婆様だと思って小馬鹿にするんじゃないよ」お婆さんは片手をまくり錦鯉の入れ墨を谷川に見せた。
 「わ・分かりましたよ・・・」松竹は書店から出てきた大林に、目で合図を送った。
 ちょうその時永崎はバイクに乗ろうとした。
 「永崎君だね。 警察のものだが、バッグの中を見せてもらおうか・・」
 「なに?警察だと・・俺はお前に用はないぜ・・」永崎は捨てぜりふを吐くと素早くバイクを180度回転させて路地に逃げ込んでいった。
 「し・しまった逃げられた・・」
 松竹は歩道のところで、金髪に染めたパンチパーマに手をあてがいお婆さんにしきりに謝っていた。

 「ひろさん、逃げられましたね・・・しょうがない永崎のマンションに行って任意同行してもらいましょうか?」
 松竹はポケットからタバコを取り出すと口にくわえ火を付け美味しそうに吸った。
 「ふうぅー、美味いなあ・・ひろさんタバコ止めたんだって?」
 「ああ、胃潰瘍になってさ、女房に止めるように言われたんだよ」大林は美味しそうにタバコを吸っている松竹を恨めしそうに眺めていた。
 「ひろさんの奥さん、病院勤めだっけ?」
 「うん、市川の総合病院で内科の看護士の士長をやっているよ、松さんのところは先生だったよな?確か30前じゃなかった?いいのお若い奥さんは・・ははは」
 「先生っていっても、幼稚園の先生だからね。若くって大変だよ。今年結婚3年目なんだけど、まだ27歳だからな。N県の事件の時はまだ16歳だよ。カミさんも高校1年だとか言ってたな、当時はショックだったらしい」
 ふたりは、永崎のマンションに戻り彼が帰るのを待っていた。
 1時間ほどすると、永崎が戻って来た。
 「警視庁のものだが、永崎君だね?バッグの中身を見せてくれ」大林は警察手帳を提示した。
 「だからうるせえんだよ、警察?その手帳本物なんだろうね?」永崎はふてぶてしく笑っていた。
 「当たり前だろう、いいから早くバッグの中を見せろよ」松竹は永崎の腕をねじ上げた。
 「痛ってえなあ、この野郎、善良な市民を捕まえて何をするんだよ。わ・分かったよ。出せばいいんだろう?」
 永崎はバッグの中から、ロリコンの雑誌とエロ雑誌2冊、科学関係の雑誌1冊に、パソコン関連の書籍1冊の合計5冊を出した。
 しかし、よく見ると書店の袋に入っていた。
 「永崎君、書店のレシート持っているかね。見せなさい」大林がドスのきいた声で問いただすと永崎は笑いながらいった。
 「レシート?そんなもの捨てたかな?ははははは」
 「おい、分かっているだろうな・・・」松竹が永崎の腕をつかもうとした。
 「分かったよ、出せばいいんだろう」永崎は財布を取り出しレシートを2枚出した。
 「松さんちょっと・・・」大林は小声で松竹を呼んだ。
 「なんだいひろさん?」
 「本を買った時間が違うんですよ。エロ本を買った時刻より科学雑誌を買った時間のほうが20分くらい後になっている」  「やられたな・・・ひろさん」
 永崎はふたりをニヤニヤしながら見つめていた。
 「どうしたんですか?だから言ったでしょう。僕だって忙しいんだ!いつまでも間抜けな警察とおつき合いしているわけにはいかねえんだよお!」
 永崎は真剣な顔になり、松竹と大林をにらみながらマンションの中に入って行った。
▲目次へ戻る

3.失跡!

 松竹と大林は、永崎の逮捕状を請求したが証拠物件が少なく逮捕状は発行されなかった。
 「松さん、頭にくるよな。絶対にやつの仕業に間違いないのに・・くそったれが」
 「まったくだ、ひろさん。こうなったらやつを挑発させて、現行犯逮捕しようじゃないか」
 「よし話は決まった。谷さん、永崎のマンションに行こう」
 「よっしゃあ!」ふたりは急いで車に乗ると永崎のマンションに向かった。
 「ひろさんよお!俺思うんだけど、永崎って犯罪を楽しんでいると思わないか?俺たちに挑戦しているのかな?」
 「そうだよな谷さん、この前だって俺たちの尾行に気づいて、わざと本を万引きして、俺たちをまいたんだろう。でもよ、あの時本を書店の中で誰かに渡したのかな・・・」
 「あっそういえば、ひろさんが俺に携帯で連絡をして、永崎が書店を出てくるとき、同じようなバッグを持った若い男が入っていったが・・・仲間かな・・」
 ふたりが雑談しながら話していると、永崎のマンションに着いた。
 「永崎が住んでいるのは、確か703号室だったよなひろさん」
 「確か703号室だったと思う、隣の女性が綺麗な人だった」大林は鼻の下を伸ばしていた。
 ふたりが703号室のドアの前に来た。表札には『和多米一』と書いてあった。和多は現在身柄を警察に拘束されているためいないはずだが、同居している永崎はいるはずだ。
 しかし、インターホンを何度押しても誰も出てこない。
 「ひろさんおかしいな・・・管理人室に行ってみようか・・」
 1階に戻り管理人室のインターホンを鳴らした。松竹は警察手帳を見せながら管理人に質問した。
 「すいません。警視庁のものですが、703号室に住んでいる永崎雄二の姿を見ませんでしたか?」
 「ながさきゆうじですか?顔がよく分かりません。和多さんがあんなひどいことをするなんて、今でも信じられないくらいですから・・」
 松竹は、ポケットから永崎の写真を取り出し管理人に見せた。
 「ちょっと待っていてください。なんせ最近老眼気味で・・今、メガネもっと来ますから・・」
 「あのう・・・管理人さんちょっと待ってくださいよ・・」松竹が声をかけたが管理人は奥に入って行ってしまった。
 「ばあさん、俺のめがね知らんかね・・置き忘れたみたいで」
 「ばあさんだと!ちょっとあんた、なに寝言を言ってるんだい。てめえの頭に載っているんだろうが・・あほくさ!」
 松竹は女性の声にはっとした。どこかで聞いた声のようだった。
 しばらくすると、管理人とその女性が出てきた。
 「あっ、あなたは」松竹は女性を指さした。
 「あっ、あんたこの前の若造か!」女性はデカイ声を出した。
 「ばあさん、警察と知り合いなの?」
 「ふん、警察なんて大嫌いさ、昔随分お世話になったもんさ、でも昔は楽しかったけどねぇ、ははははは。警視庁に『赤柿虎蔵(あかがきとらそう』通称、赤虎って呼ばれていて、庶民には優しく、犯罪者には鬼のように恐れられていたもんさ。酒好きで大の女好きだったけどねぇ。ところでまだいるのかい?」
 「赤柿さんの知り合いでしたか、恐れ入りました。赤柿さんは今特別捜査課の次長をやっていて、現場にはほとんど出ないですよ。お姉さんの名前はなんというんですか?」
 松竹は頭をかきながら、おばさんのほうをみた。
 「ほう。お姉さんときたもんだ。あんちゃん、案外いいやつじゃないか。あたしの名前は、『錦織ぎん』だよ。このあたりじゃ、ぎんちゃんといえば知らない人はいなかったもんさ」
 「ぎんさんですか、今度、赤柿さんにあったら伝えておきますね。ところで、今日来たのは703号にいる『永崎雄二』について聞きたかったのです。留守みたいですが、最近見ませんでしたか」
 大林は、手帳を開きながらぎん姐さんに聞いた。
 「『ながさきゆうじ』?聞いたことないねぇ。和多米一はちょくちょく見たけどね、まったくとんでもない男だよ和多は、写真ないのかい?」
 「あっ、先ほどご主人に見せたんですが・・ご主人すいません・・見せてください」松竹は頭をかいて笑った。
 「ふん、くそじじい役にたたないねぇ、早く写真見せな」ぎん姉さんは奪い取るように主人から写真を取った。
 「このがきが『ながさきゆうじ』かい、夜中に何度か出て行くところを見たことがあるねぇ。昨日は夜中に変な女が出て行ったけどこいつはみてないね」
 ぎん姉さんは松竹に写真を返した。
 「分かりました。捜査にご協力ありがとうございました」ふたりは錦織夫妻に頭を深々と下げた。
 「あいよ、なにか困ったことがあったらいつでもおいで、力にはなれると思うよ」
 ぎん姉さんは、今まで見せたことのないような穏やかな表情になっていた。

 「松さん、ぎんさんって案外いい人みたいですね。錦鯉の入れ墨をしていたので怖い人かとおもっていたけど」
 「そうさなあ、しかも赤柿先輩とかなり親しいみたいだし、ひろさん、案外先輩のこれだったりして、ははははは」
 松竹は小指を立てて豪快に笑っていた。
 「ところで松さん、永崎のやつどこへとんずらしたんだろうか。やつの過去を洗う必要があるようだな」
 「一度戻って課長に相談するか。ひろさんどこかで飯でもくっていかないか?」
 「いいねぇ。そういえば何も食っていなかったな」
 ふたりは近くの『長寿庵』というそば屋に入った。
 「ひろさんたち、らっしゃい。珍しいねこんな時間に」そば屋の主は気さくに声をかけた。
 「あっ、山ちゃん久しぶり、腹減ってね、朝からなんにも食っていないんだよ。カツ丼と盛りそばもらおうかな?ひろさん何にする?」松竹が腹を押さえながら椅子に座った。
 「俺は天丼にするよ。じゃあおやじさん、カツ丼と盛りそば一枚、それと天丼の大盛り一つね」
 「あいよ!まいどあり〜」
 「松さんよお、俺思うんだけど永崎の野郎犯罪を楽しんでいないか?この後も絶対になにかやるんじゃないのかな・・」
 「ひろさんもそう思うかい?何処かへ逃げたんだろうけど、何か問題を起こすはずだ。やつの育った群馬に行く必要があるかもしれないな」
 「おまちどうさま・・・・ふたりともゆっくり食べていってくださいよ」山本は奥に入っていった。
 「サンキュー、山ちゃんの料理を食べると力出て、頭の回転もよくなるからなぁ・・」松竹はコップの水を豪快に飲むとお冷やのお代わりを頼んだ。
 「松さん、じゃあ本庁に帰って群馬に行く段取りでもするか。でも課長頭が固いからな・・・気が重いぜよ」
 ふたりは食事を済ませると、長寿庵の店主山本に礼をいい本庁に戻っていった。

 その頃テレビでは臨時ニュースが流れていた。東京近郊の県で飲食店従業員殺害の容疑者『尾方典秀』26歳が緊急逮捕されたのだ。
 尾方は和多米一が経営していた、スパークフリーの元幹部で和多容疑者の実態が暴かれる寸前に和多容疑者の元を離れ、飲食店に勤めていたのだが、16歳の少女をめぐり、争いになり同僚を殺してしまったのだ。
 逃げていた、16歳の少女も警察に保護されたということだった。
▲目次へ戻る

4.追跡前夜!

 松竹と大林は警視庁に戻り、課長の『草井博一(くさいひろかず)』に永崎雄二調査のための群馬行きを打診したが、案の定課長の草井は難色をしめした。
 課長の草井の名前も『博一』で警視庁の捜査1課の『トリプル博』といえば何かにつけ有名であった。
 「松さん、君の気持ちは分かるんだが・・・本当にあれ、永崎が犯人という確証はあるのかね。そうでなくても最近の世間の目は厳しいのだよ。もしえん罪にでもなればわが警察は世間の標的にされてしまう」
 「確証は今のところありませんが、群馬に行って永崎の過去を調べれば分かると思います。課長・・・捜査を是非お願いします」
 「ううむ・・・・部長と相談するからちょっと待っていてくれ・・」課長の草井は重い足取りで部長室に入っていった。
 「失礼します。草井ですがよろしいでしょうか?」
 「なんだ、草井君か?ぱっとしない顔をしているが、何か問題でもあるのかな?」部長の『水下石夫(みたれいしお)』は笑いながらいった。
 「部長実は、松竹と大林が『永崎雄二』が今回頻繁に起こっている事件に関係しているので、彼の育った群馬に調査に行きたいといっております。また、永崎雄二は、11年前に長崎県で起きた 児童誘拐殺人犯の『松田雄二』ではないかといっているのです」
 「ほほう、草井君それで君はどう思うのかね?意見を聞かせてくれたまえ」
 「じ・自分は永崎雄二と松田雄二は別人だと思っております。今回の調査も問題があるのではと・・・」
 「ふむ!永崎雄二と松田雄二が同一人物だとな・・・なかなかいいところに着目しているのじゃないかね、草井君」
 「でしょう?実は自分も調査は必要だと思っていたのです・・・」課長の草井は優柔不断のうえ、お調子者でとおっていたのだ。そのため、捜査の指揮が取れず現場サイドもぐちゃぐちゃになったことは1度や2度ではなかったのだ。
 「それでは、ふたりに捜査をやらせます。では失礼しました」草井は頭を45度下げると部長室を出て行った。
 「松竹、大林こちらへ来たまえ、今私が部長を説得し、永崎雄二の調査を許可してもらった。庶務にすぐ旅費の請求をするように。では頼んだよ。群馬県警には私のほうから連絡をしておこう」草井は真剣なまなざしでふたりを見つめながらいった。
 「課長どうもありがとうございます」松竹と大林は同時に頭をさげた。
 「では課長、出かける準備をしますので、失礼します」松竹と大林は自分の席に戻った。
 「松さんよお、今回は意外だったな。あの優柔不断の『クサヒロ』が一度でOKするなんてさ」小声で大林が松竹に話しかけた。
 「ひろさん、あれは部長のツルの一声じゃないのかな・・・あのクサヒロがOKするわけないぜよ。庶務に行って旅費を申請してくるか、今見積書を作るから」
 「悪いね、谷さんいつも・・」大林は笑いながら頭をかいた。

 しばらくすると見積書もできあがり庶務の経理担当の『池上メグミ』のところにやって来た松竹。
 「メグミちゃん、胸の谷間がまぶしいねぇ・・・顔を埋めたいよ〜ん。旅費の請求頼のむメグちゃん、なあんちゃって」
 松竹はメグミの制服の上から胸の谷間をのぞき込むように言った。
 「キャー!松竹さん、セクハラですよ。もう・・・松竹さんの奥様に言っちゃいますよ」メグミは胸を手で隠すように松竹をにらんだ。
 「ごめんごめん、いつもメグミちゃんが可愛いからつい言いたくなるのさ、明日から群馬に調査に行くから旅費のほうお願いするよ。急ぎで悪いんだけど・・」
 「はい。分かりました。群馬に行くって何の事件なんですか?」メグミは小さい声でつぶやくように言った。
 「大きな声では言えないんだけどさあ、永崎雄二の調査に行くんだよ。これみんなには黙っていてくれる?」
 「いいですよ。でもおみやげちゃんと買ってきてくださいね」メグミは松竹にウインクした。

 「ただいま」松竹は大きな声で玄関の戸を開けマンションに帰ってきた。
 「あなたお帰りなさい。疲れたでしょう。お風呂先に入る?」
 「うむ、美由紀と一緒なら入ってもいいかな・・・」松竹は美由紀の腕をつかむと風呂場に向かった。
 「あなた、どうしたの随分強引ね・・・ふう・・なにかあったの?」
 「明日から群馬に調査に行くことになったのさ、だから今夜は燃えるんだよ」松竹はシャワーで体を流した。
 美由紀もほてった体をシャワーで流した。

 その頃大林も自宅に帰ってきた。
 「今戻ったよ。おお!いいにおいがするじゃない?俺の好きなカレーライスかな?」
 「ひろちゃんお帰りなさい。今日はカレーの他にウナギの蒲焼きと、ウナギの肝も一緒よ」
 「どうしたんだい?ところで子供達はいないようだけど・・・」
 「お母さんが来たんだけど、久々だからって実家に連れて行ったのよ。今日はあなたとふたりよ、ふふふ」
 「おいおい・・・どうしたんだよ急に・・・」大林はニヤニヤしていた。
 「知子、俺明日から群馬に調査に行くことになったよ」
 「群馬って?なんか事件なの?」
 「最近物騒な事件が連続して起きてるだろう?昔、長崎県で起きた少年犯罪覚えている?12歳の少年が児童を誘拐して殺害した・・」
 「忘れるわけないわよ。それでその事件と何か関係あるの?」
 「うん、その当時の少年が今23歳になるんだけど、別件で浮かび上がった永崎雄二という青年と同一人物じゃないかとふんでいるんだよ」
 「そうなんだ、頑張ってね。でも今日は美味しいものをたっぷり食べて、私たちも頑張りましょうカレーには子供達がいないからニンニクもたっぷり入っているわよ」
 知子は大林の腕をひっぱりリ、ビングのテーブルに連れて行った。

 次の日警視庁に現れた松竹と大林は、大きなあくびをしていた。
 「松さんどうしたの?眠そうな顔をして、奥さん若いからな、ははははは」
 「そういうひろさんだって、真っ赤な目をしてふらついているけど、大丈夫かよ・・」
 ふたりでニヤニヤしていると、そばを池上メグミが松竹の横腹をつねって通り過ぎた。
 「松さん、どうしたんだろう。池上さん随分と機嫌悪いみたいだね・・」
 「な・何かあったのかなはははは・・」松竹は何かを隠すように笑った。
 「課長。では、自分たちは群馬に行って来ます」松竹と大林は頭を下げてその場を去り席に戻った。
 「ああ、部長も期待しているようだからいい報告を期待しているよ」課長の草井は妙に機嫌がいいようだ。
 「ひろさん、悪いんだけどメグミちゃんのところに行って旅費もらってきてくれる?」
 「いいですけど・・何かおかしいですよ松さん?隠し事ない?」
 「ないない・・・・はははは」
 旅費を受け取るとふたりは駐車場に行き特別車両のスバルレガシーB4に乗り込んだ。
 「さあひろさん行こうか・・」松竹はレガシーのイグニションキーをまわすと、快いエキゾーストのノイズが響いた。
 「ああ、松さん行こうか・・・」
 レガシーは一路、群馬へと向かった。
▲目次へ戻る

5.松田雄二!

 松竹と大林は首都高速から美女木経由で関越自動車道に入っていった。
 「ひろさんよお、永崎は群馬県の東村というところで高校まで生活していたわけだろう、東京にあこがれたっていう話だけどどこまで本当なんだろうか?」
 「そうさなあ、やつは生まれながらにして人間の皮を被った悪魔なのかもしれないな・・ところで松さん、群馬は結構詳しいみたいだけど」
 「女房の親が群馬にいるんだよ、それで年に何回かは行っているからおおよそのところは分かるかな。女房と知り合ったのも谷川岳だし」
 「そういえば松さんいつか言ってたよな、奥さんが山で怪我をしたところを助けてやったって。本当?」
 「そ・そんなこと言ったことあった?」
 「宴会の席で、松さんが裸踊りしたときに、メグミちゃんがこっそり教えてくれたんだよ」
 「メグミちゃんが?あれねぇ・・・違うんだよ。俺が谷川岳に行ったとき小のほうがしたくなって、道脇でやっていたら足を滑らせてそのまま滑り落ちたんだ。気がつくと目の前に今のカミさんがいたんだよ。うかつにもアレがズボンのチャックから出たままで」
 「するとなにかい、奥さんは谷さんのアソコに惚れたっていうわけかい。はははははは」
 「ひろさん、なにも笑うことはないぜよ。その時は夢でも見ていたのか、ビンビンだったからな、そのままカミさんとやっちゃってさ・・気がついたら結婚していたんだよ」
 「松さん相変わらず、手じゃなかった。下半身がが早いなあ・・警視庁で『ビッグマグナムを持つ男』って婦警さんの間で有名らしいし、はははは」
 「ひろさん、さっきからレガシーの後ろに黒い、RX−7がぴったりついてくるの知っていた?」
 「ああ、関越を入った時からずっとついてくるよな。今何キロで走っている?」大林はスピードメーターを覗いた。
 「今、110kmで走行中だよ。ちょっと確認してみるか」松竹がアクセルを踏み込むとレガシーは急加速をしてあっという間に160kmになった。ノーマルのレガシィでも280馬力を発生させるエンジンは、チューニングで400馬力くらいは出ているだろう、最高速度も250km近くは出るはずだ。
 ルームミラーを確認すると後ろのRX−7はあっという間に視界から消えた。
 「松さんやっぱり気のせいだったかな。関越は東北自動車道と比べるとスピードを出す車が少ないような気がするよな」
 「そうだな、時々見かけるけど平均的にはスピード出してないな。どうする高坂で一服する?」
 「いいね!トイレに行くついでにかまぼこでも食っていくか・・」松竹は高坂サービスエリアへゆっくりと入っていった。
 車を降りると松竹はポケットからタバコを取り出し美味しそうに吸った。
 「松さん、美味そうだな・・・・」
 「ひろさん、悪い悪い・・止めていたんだったな」
 「別に気にしなくていいよ、もう慣れたから・・でも美味そうだなははは、ちょっとトイレに行って来る」
 「あいよ、俺も一服したらトイレに行くよ。その後かまぼこを買おうか・・」
 ふたりはかまぼこと冷たいドリンクを買い車に戻った。
 「さあ、東村へ急ごう」

 レガシーは関越自動車道を順調に走行し、上里サービスエリアを少し過ぎたあたりで長野方面と新潟方面に別れる、松竹は新潟方面へ車を向け『渋川・伊香保出口』で高速を降りた。
 出口を降りて少し走ると沼田方面と中之条方面の看板が見えた。松竹は中之条方面に車を左折させた。
 「この先、2車線が1車線になるんだけど、マナーの悪いのがいてねぇ、真面目に左車線に並んでいるのに、平気で右側を走って無理矢理左側に突っ込むあほが結構いるんだな」
 なるほど、松竹が話をしているそばをスピードを上げながら右車線を走る車がいた。
 「ちゃんと並べばいいのに、余計合流地点で混むのにね。松さんの言うとおりだな」
 「でも混雑しているのはここだけなんだよ。これを過ぎれば信号も少ないしな・・」
 少し走ると17号線から左に曲がった。
 「あれ?松さん道違っていませんか・・・まっすぐに行って橋を渡ってから草津方面に行くんじゃ・・」
 「ひろさん、こちらのほうが近道なんだよ。この先を右折してまっすぐ走れば東村役場に行くんだよ」
 「松さん詳しいね」
 「この辺はカミさんとよく走ったからな」
 しばらく走ると、標識に伊香保温泉の看板が出ていた。
 「ひろさん、今日は伊香保温泉に泊まる予定なんだけどいいかい?」
 「おおいいねぇ・・きゅーっと一杯いきましょう・・ははははは」大林は少ない髪の毛をかき上げるような仕草をした。
 左側に東村役場が見えてきた。車を駐車場に入れると役場の中へ入っていった。
 松竹は受付に行き、警察手帳を見せた。
 「警視庁のものですが、『永崎雄二』の調査できたのですが、住民のかたもいらっしゃいますので、どこか別の部屋で調査したいのですが・・・」
 「かしこまりました。ただ今上司を呼んで参りますので、そちらのソファーでお待ちくださいませ」一場というネームプレートを付けた女性は松竹と大林を見て一瞬たじろいだが、警察の者だと分かると奥の席にいた課長のところに行き、説明しているようだ。
 課長は面倒臭そうな仕草をしたが松竹達と目が合うと軽く頭を下げて立ち上がりソファーのところにきた。
 「どうもすいません。課長の唐沢といいます。さあこちらへどうぞ」課長の唐沢はふたりを小会議室へと案内してくれた。
 「一場君から聞いたのですが、『永崎雄二』の調査ということですが、何をしたらよろしいのでしょうか」唐沢は汗を拭きながらふたりを見つめた。
 「忙しいところすいません。自分は警視庁捜査1課の『松竹岳博』といいます」谷川は名刺を出した。
 「自分は同じ課の『大林 博』といいます」大林も名刺を差し出した。
 「実は東京で奇怪な事件が多発しているのですが、その容疑者に『永崎雄二』が浮かんだのです。確か彼はこの東村で高校までいたと思うのですが・・・」
 「永崎雄二ですか・・このあたりでは問題児で有名でしたね。何でも中学3年の頃に養子にきたと思いますよ」唐沢はやっと汗が治まったようだ。落ち着きを取り戻していた。
 「それにしても唐沢さん、永崎のことをよくご存じですね」松竹がゆっくりした口調で尋ねた。
 「それがですね。2日ほど前なんですが、『永崎雄二』のことを詳しく調べにきた人がいるんですよ・・確か名刺をもらっていましたね。少しお待ち頂けますか?」唐沢は会議室を出て行った。
 それと同時に先ほどの受付の一場嬢がお茶を運んできてくれた。
 「どうぞ、粗茶でございますがお召し上がりください」
 「すいません。一場さんですか、随分綺麗なお方なんでびっくりしました。もてるでしょうね」松竹が鼻の下を伸ばしていると隣から大林が腹を突いた。
 「松さん、まずいですよ。捜査中です・・」大林が一場嬢に頭を下げた。
 「ありがとうございます。でも、そんな私なんかもてないんですよ。彼氏もいませんし・・」一場は恥ずかしそうに下を向き軽く頭を下げると会議室を出て行った。
 「ありました。ありました。これがそうです・・・どうぞ」一場と立ち替わり唐沢は戻ってきた。汗を拭きながら太った体を器用にひねり椅子に座った。
 唐沢がもらった名刺には『閑古鳥吉(かんことりきち)』、雑誌社の記者と書いてあった。
 「松さん、閑古鳥吉なんて人を食ったような名前ですね・・本名なんでしょうか?」
 「さあね・・ところで唐沢さん、この人は何を調べていったんですか?」
 「戸籍謄本とか住んでいた家とか調べていましたね」唐沢の汗もやっと引いてきたようだ。
 「それでは自分たちにも戸籍謄本をお願いします。それと永崎が住んでいた家の住宅地図が欲しいのですが・・・」
 「かしこまりました。一場に謄本と住宅地図をコピーさせましょう」唐沢はまた戻って行った。
 「松さん、閑古鳥吉が永崎を嗅ぎまわっているのかな?」
 「さあな・・でも何かあるのは間違いなさそうだ・・・・」松竹は腕を組んで目を閉じた。

 松竹と大林は何を考えているのかしばらく無口になってしまった。ドアをノックする音にふたりは我に返った。
 「お待たせしました。資料のほうが揃いましたのでお持ちいたしました。どうぞ」一場嬢が松竹に資料を渡した。
 「あっ、忙しいところすいません。どうもありがとうございます」松竹は一場嬢に頭を下げた。
 「さあ、ひろさんいよいよだな」
 「松さん緊張するな・・・」
 ふたりはまず、戸籍抄本を調べ始めた。すると案の定、見慣れた地名が出てきたのだ。
 「ひろさんこいつを見ろよ・・やはり俺たちのにらんだとおりだったぜ」松竹は抄本を指さした。
 永崎雄二(松田雄二)23歳、1980年5月12日長崎市千歳町生まれ。1993年に父親の親戚筋にあたる群馬県吾妻郡東村の永崎家に養子縁組をして 現在にいたる。
 「松さん、間違いないな!永崎が住んでいた。家に急ごう」
 課長の唐沢と一場嬢にお礼をいうため唐沢のところにやって来た。
 「唐沢課長さん、どうもお忙しいところありがとうございました。助かりました」ふたりは頭を深々と下げた。
 「とんでもないですよ。捜査に協力するのは一般市民の義務ですからね。はははははは」唐沢は豪快に笑った。
 一場嬢のところにも行き、松竹は小さなメモを私ながら頭を下げた。
 「一場さんいろいろとありがとう」松竹はお礼をいうと小声で囁いた。
 「そのメモ、俺の携帯の電話なんですよ。夜伊香保温泉に泊まっています」松竹がそう言うと、一場嬢はにこりと微笑んだ。
、ふたりは東村役場を後にした。車で5分ほど走ると、もらった地図の永崎家が見えてきた。
▲目次へ戻る

6.


▲目次へ戻る

7.


▲目次へ戻る

8.


▲目次へ戻る

9.


▲目次へ戻る

10.


▲目次へ戻る